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東京地方裁判所 平成5年(ワ)20060号 判決 1998年1月28日

原告

洪美京

被告

本間利行

主文

一  被告は、原告に対し、金八四万三四三一円及びこれに対する平成四年九月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の求めた裁判

一  被告は、原告に対し、金四一六万一三三五円及びこれに対する平成四年九月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行宣言

第二事案の概要

本件は、交通事故により負傷した原告が、被告に対し、損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故(以下、「本件事故」という。)の発生

(一) 日時 平成四年九月二二日 午前九時一〇分ころ

(二) 場所 埼玉県新座市野火止四丁目一三番三号先交差点(以下、「本件交差点」という。)

(三) 事故態様 被告は自動二輪車(一所沢き九一九一)を運転し、清瀬方面から志木方面に直進した際、志木方面から所沢方面に右折進行してきた原告同乗の原告の夫安剛郁運転の軽四輪貨物自動車に衝突した。

2  責任原因

(一) 被告は、加害車両である自動二輸車を保有し、自己のために運行の用に供していたものであり、自賠法三条に基づく損害賠償責任がある。

(二) 被告は、前方注視を怠った上、時速六〇キロメートル以上の速度で交差点に進入した過失により本件事故を生じさせたものであり、民法七〇九条に基づく損害賠償責任がある。

3  損害のてん補

原告は、本件事故による損害賠償として一八万六四〇〇円の支払いを受けた。

二  争点

1  損害額

(一) 原告の主張

原告は、本件事故により、頸椎捻挫、腰椎捻挫、頸椎打撲傷の傷害を負い、新座志木中央病院に平成四年九月二二日から同年一〇月一五日まで(実通院日数八日)、奥脇産婦人科病院に平成四年九月二二日、韓国デリン漢医院に平成四年一〇月二〇日から平成五年四月一五日まで(実通院日数一四日)それぞれ通院治療を受け、次のとおりの損害を被った。

(1) 治療費 一二一万一二五八円

<1> 新座志木中央病院 一万九九九〇円

<2> コスモファーマシー 一六九〇円

<3> 奥脇産婦人科病院 四三五〇円

<4> デリン漢医院 一一八万五二二八円

(2) 交通費(看護のための近親者の交通費を含む。) 二八万二七三六円

(3) 休業損害 一七四万五四三八円

原告は主婦であるが、二〇六日間(平成四年九月二二日から平成五年四月一五日まで)働けず、賃金センサス平成四年第一巻第一表産業計企業規模計女子労働者の全年齢平均賃金額三〇九万三〇〇〇円を基礎として、一七四万五四三八円(一日八四七三円×二〇六日)に相当する休業損害を受けた。

(4) 慰謝料 六六万円

(5) 通信費 七万円

(6) 弁護士費用 三七万八三〇三円

(7) 請求額 四一六万一三三五円

総損害額から前記争いのない損害てん補額を差し引いた。

(二) 被告の認否

不知又は否認する。

2  過失相殺

(一) 被告の主張

原告の夫である安剛郁には、交差点を右折するに当たり、対向直進してくる車両等に十分注意して右折進行すべき義務があるのに、漫然右折したことによって本件事故を発生させた過失があるから、本件損害の算定に当たっては、安の過失を十分に斟酌すべきである。

(二) 原告の認否

争う。

第三争点に対する判断

一  原告の損害額(弁護士費用を除く。)

1  治療費

(一) 証拠(甲二の1、2、三、四、乙一五、一六、原告本人)によれば、原告は本件事故により頸椎捻挫、腰椎捻挫の傷害を負い、新座志木中央病院に平成四年九月二二日から同年一〇月一五日まで、奥脇産婦人科病院に平成四年九月二二日、それぞれ通院して治療を受け、その間治療費として合計二万六〇三〇円(新座志木中央病院分一万九九九〇円、コスモファーマシー分一六九〇円、奥脇産婦人科病院分四三五〇円)を支出したことが認められる。

(二) さらに、前掲各証拠に加え、証拠(甲五の1ないし6、七の1ないし5、九の1ないし8、一〇の1ないし8、一五、鑑定嘱託)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時妊娠中であり、X線撮影や投薬等が受けられなかったことから、韓国に帰った後、デリン漢医院で平成四年一〇月二〇日から平成五年四月一五日まで漢方治療を受け、治療費として、合計八九六万ウオンを支出したことが認められる。

鑑定嘱託の結果によれば、右治療の必要性、相当性を認めることができ、これに反する証拠はない。また、原告は、当時妊娠中であり、通常のX線撮影や投薬等が受けられなかったから、かかる漢方治療によったこともやむを得ないものということができる。

ところで、本件口頭弁論終結の日の前日終値の外国為替対顧客電信売相場(甲一九)に照らして、日本円に換算すると、右損害額は、一〇〇万一七二八円に相当するものと認められる(計算式 8,960,000×11.18/100)。

2  交通費

(一) 通院費用について

甲六の1によれば、原告は、新座志木中央病院への通院費用として二万一二九〇円を支出したことが認められる。その余の通院費用については認めるに足りる証拠がない。

(二) 両親の来日費用について

証拠(甲六の2ないし7、原告本人)によれば、本件事故の翌日、原告の体を気遣って、韓国に居住していた原告の両親が来日したことが認められる。

ところで、本件事故による原告の負傷は、前記認定のとおり頸椎捻挫、腰椎捻挫の傷害であるが、原告は本件事故当時妊娠中であったから、その体を気遣い、事故直後の看護や身の回りの世話をするため、少なくとも両親のうち一名が来日することは本件事故による原告の負傷と相当因果関係のある損害ということができる。

証拠(甲一六、一七)によれば、両親の一名が来日し、その後帰国する費用は少なくとも八万円を要すると認められる。

(三) 原告の帰国費用について

原告が韓国で受けた漢方治療は、日本では受けられないということはできず、原告の症状についても、本件事故の直後はともかくとして、その後母親の看護等を受けるため帰国する必要がある程度に悪かったことを窺える事情は本件各証拠からは認めがたい。また、原告が帰国して出産したことは、通常、里帰り出産としてもあり得るものである。そのほか本件事故による負傷と原告の帰国との相当因果関係を認めるに足りる証拠はない。

3  休業損害

原告の負傷及び通院治療の状況は、前記1で認定したとおりであるが、さらに証拠(甲二の1、2、五の1ないし6、七の1ないし5、九の1ないし8、一〇の1ないし8、一五、乙一五、一六、原告本人、鑑定嘱託)によれば、原告は本件事故当時専業主婦であったが、本件事故による負傷とそれによる通院、療養のため、本件事故のあった平成四年九月二二日から平成五年四月一五日までの二〇六日間、子どもの世話等の主婦労働が困難であったと認めることができる。ところで、証拠(甲一一の1、2、原告本人)によれば、原告は、平成四年一一月二一日に出産していることが認められるが、その前後三〇日、合計六〇日は、本件事故により負傷しなくとも出産のため主婦労働が困難であったと窺えるから、本件事故と相当因果関係のある休業期間は、右六〇日を控除した一四六日と認めることができる。

そこで、賃金センサス平成四年第一巻第一表産業計企業規模計女子労働者の全年齢平均賃金額三〇九万三〇〇〇円を基礎とすると、原告の一日当たりの主婦労働の対価は八四七三円(円未満切捨て)に相当すると認められるから、原告はその一四六日分に相当する一二三万七〇五八円の休業損害を受けたと認められる。

4  通信費

甲一八によれば、本件事故後通信費が通常よりも多くかかったということであるが、それは抽象的には理解できないではないものの、その具体的な金額を認めるに足りる証拠がない。

5  慰謝料

前記1で認定した本件事故による原告の傷害の程度、治療経過、通院期間、通院実日数等を考慮すると本件事故による慰謝料としては八〇万円を相当と認める。

二  過失相殺

1  本件事故の態様

本件事故が、被告運転の直進自動二輪車と原告の夫安剛郁運転の右折軽四輪貨物自動車との交差点における衝突事故であることは当事者間に争いがない。

さらに、証拠(乙一ないし一四、一八)によれば、本件事故の態様等につき、次の事実が認められる。

(一) 本件交差点は、志木方面から清瀬方面に向かう車道幅員約六・七メートル・制限速度時速四〇キロメートルの道路と、所沢方面に向かう幅員約六メートルの道路とが交わるT字路交差点で、本件交差点の清瀬側に横断歩道が設置されており、押しボタン式信号機により交通整理が行われていた。

(二) 原告の夫安剛郁は、志木方面から清瀬方面に向かって進行して本件交差点に至ったが、前方の押しボタン式信号機が赤色を表示していたので、本件交差点の手前で、前車に引き続き、右折の合図を出して停車した。前方の信号表示が青色に変わり、交差点内に進入して停止し、対向車の通過を待って、右折しようとしたが、右方道路上に左折の合図を出して自動車が停止していたことから、右方道路の確認に気を取られ、対向道路の確認が不十分なまま、時速一〇ないし一五キロメートルの速度で右折し、対向直進してきた被告運転の自動二輪車と衝突した。

(三) 一方、被告は、清瀬方面から志木方面に向かって進行して本件交差点に至り、前方の押しボタン式信号機が青色を表示していたので、そのまま本件交差点を直進しようとし、対向車線上に右折のため停止していた安運転の自動車を発見したが、自車よりも先に右折することはないと考えて、時速約六五キロメートルに加速して本件交差点に進行した際、安運転の自動車が右折してきたことから、急制動をしたところ、前輪がロックして転倒、滑走し、そのまま安運転の自動車に衝突した。

2  右認定事実を基礎として過失相殺について判断すると、被告には、制限時速を約二五キロメートル上回る速度で進行した過失があるのに対し、原告の夫安剛郁には、対向道路から進行してくる車両の有無を十分確認しないまま右折進行した過失があるから、これを被害者側の過失として斟酌し、これらを比較し、右1の事故態様を総合考慮すると、過失相殺として原告の損害額の七割を減ずるのが相当と認められる。

三  損害額の計算

被告において賠償を要すべき原告の損害額は、前記一の合計額三一六万六一〇六円から七割減額した九四万九八三一円(円未満切捨て)となる。ここから当事者間に争いのない損害てん補額一八万六四〇〇円を差し引くと残額は七六万三四三一円となる。

四  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は八万円とするのが相当であると認められる。

五  結論

よって、原告の本訴請求は、損害賠償金合計八四万三四三一円及びこれに対する本件不法行為の日である平成四年九月二二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がない。

(裁判官 松谷佳樹)

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